ななぽんのブログ

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映画『マイ・フェア・レディ』 英国の階級社会がよく分かる映画

監督:ジョージ・キューカー 原作:バーナード・ショー 主演:オードリー・ヘップバーン アメリカのミュージカル映画

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【あらすじ】

 言語学者のヒギンズ教授とピカリング大佐は、ひょんなことから、労働者階級の花売り娘、イライザ(オードリー・ヘップバーン)の粗野な言葉遣いを正して、舞踏会に出すことができるかどうかを賭けることになる。

 

【感想】

階級社会って日本人には馴染みが薄い

 日本でも、政治家の子供は政治家になり、医者の子供は医者になる傾向があるように、実質階級に近いものは存在する。ただ、本人の努力と才覚次第で、貧困層でも高学歴になれるし、好きな職業にも就くことができる。英国はそうではなく、人々の階級が明確に決まっており、英語の発音だけで属する階級も分かってしまうことがよく分かる映画。インドでもカースト制度が未だに根強いように、世界に目を向けると階級社会というのは当たり前にあるものなのだろう。

 中盤では、ひょんなことからイライザの父親が労働者階級から中産階級(ミドルクラス)になる。彼は元々労働者階級で、娘のイライザに金を無心するどうしようも無い父親で、貧しいながらも酒を飲んで気楽に暮らしていた。しかし、中産階級になった後は、逆に周囲の人間に施しを行う側になったり、世間の風潮から結婚しなければいけないなど、息が詰まる思いをするようになる。彼は中産階級の窮屈さを感じながらも、その豊かさを味わうともう手放すことはできなくなっていた。一見すると誰もが羨む生活をしながらも、実はそれに伴って苦しい部分もある。まさに、「隣の芝生は青く見える」という言葉の好例だと感じた。

 

 

映画『交渉人』 緊張感のあるストーリー

 

『交渉人』 監督:F・ゲイリー・グレイ 脚本:ジェームズ・デモナコ

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【あらすじ】

 主人公ダニー・ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)は警察の人質交渉人。彼は警察官が殺された現場に居合わせたことがきっかけとなり、警察年金基金の横領と、その隠蔽のための殺人の被疑者にされる。彼は濡れ衣であることを訴えるも取り合ってもらえず、内務調査局で人質を取って立てこもり事件を起こす。

 

【感想】

ストーリーの構成が秀逸

 概ね次の①②③④の構成になっている。①最初に主人公ダニーが人質交渉人として事件を解決する場面から始まる。彼の能力や人となりを見せ、なおかつ最初に緊張感のあるシーンを映すことで、観ている人を惹きつける。②警察年金基金横領の件で、ダニーに殺人の嫌疑がかかる。ここで彼が置かれる苦境に十分感情移入できるようになっている。③ 彼が人質を取り立てこもり事件を起こす。④警察側の人質交渉人が鎌を掛けたことで真犯人が分かり、事件は集結する。①~④までの繋がりがよくできている。

 

 面白いのが、彼もまたプロの人質交渉人であり警察の手口を知り尽くしているので、状況を自分のペースに持っていくのが上手いところ。また、警察側の人質交渉人セイビアンとの駆け引きや、特殊部隊を突入させるか、交渉を継続するかで警察側の人間ドラマがあるところも見どころ。

 

光や風によって盛り上がる演出

 時間帯が夜なので、パトカーやヘリから出る光によってビルが照射されるのが、まるで舞台のスポットライトのような効果を出している。また、ヘリが巻き起こす強い風によって映像に迫力を出せている。これらの自然な演出がストーリーを盛り上げているところが良い。

 

 緊張感のあるとても面白い映画でおすすめ。

映画『恋はデジャ・ヴ』 かなり笑った映画

製作・監督・脚本:ハロルド・ライミス 主演:ビル・マーレイ

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【あらすじ】

 フィル・コナーズ(ビル・マーレイ)は人気気象予報士で、傲慢な性格だった。ある日TV放送のために訪れた町で一日を過ごしたが、朝になると、どうやら昨日と同じ一日が繰り返されていることに気づく。同じ日のループから抜け出せなくなった彼は、この状況を利用して様々なことを試みる。

※以下ネタバレあり

【感想】

こんなに笑った映画は無い

 相当笑った映画。あらすじに書いた通り、彼は同じ日のループから抜け出すことができない。次の日には状況が全てリセットされているので、それを利用して考えつく限りのことをする。線路の上を車で暴走して逮捕されたり、同行したプロデューサー、リタの好みを前の日に把握しておいて、クドくのに利用したりする。同じ毎日で次の瞬間に何が起こるか全て分かっているので、先回りして話して引かれたりしている。ビル・マーレイが基本的に真顔なのが余計に面白い。

 

人に感謝されることが一番心の充足につながる

 同行したプロデューサーのリタと過ごした時間がきっかけとなり、彼は町中で人助けをしてループの日々を過ごすようになる。やはり、人は自分の欲望を満たすだけでは飽きてくるのだと思う。他人に何かをして感謝されることが、結局は人生の充実につながる。同じような一日でも、過ごし方の違いで人生は変わってくる。そう思える映画だった。

 

映画『カッコーの巣の上で』 一人の男が精神病院の鬱屈とした空気を変えていく

カッコーの巣の上で

監督:ミロス・フォアマン 原作:ケン・キージー 主演:ジャック・ニコルソン

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【あらすじ】

 マクマーフィ(ジャック・ニコルソン)という男が、刑務所での強制労働を逃れるために、狂人を装って精神病院に入院した。マクマーフィは持ち前の明るさで、精神病院の鬱屈とした空気を変えていく。

 

【感想】

かなり好きな映画

 かなり好きな映画の一つ。マクマーフィは精神病院に入院し、患者の権利を強く主張したり、釣りやバスケの楽しさを他の患者に教えたりしながら、病院内の空気を変えていくところが面白く、温かい気持ちになれる。あとジャック・ニコルソンの全力の演技は最高。

マクマーフィは精神障害者を対等な人であると認識している

 また、マクマーフィは精神障害者に対する偏見を持っていないように見えて、普通の人たちと同じように分け隔てなく接しているところが素晴らしいと感じた。彼は作中で、精神障害者について「話の内容も理解していない奴ら」のような発言をしたり、ものまねを披露したりするなど、差別的な表現はしている。しかしそれは決して見下したニュアンスで行っているのではなく、彼らを対等な人間であると認識し、愛情を持っているからこその表現だと感じる。「差別はいけない」と綺麗事を並べ立てる人よりも、彼のように時には差別的な表現は行いながらも、普通の人と同じように接している人の

方がよっぽど偏見を持っていないように感じる。

人の世界を広げる行為は感動を呼ぶ

 『カッコーの巣の上で』のように、他者との関わり合いによって、人の世界が広がっていくストーリーは、観ている人に感動を与える。視野が広くなると言ってもいいだろう。自分の世界に閉じこもっていた人が、外の世界にも目を向けるようになる。他人に偏見を持っていた人が、偏見を持たれていた人の行動で見方を変えるようになる。このように、人の世界や視野が広がるのを見ると人は感動する。要するに、他者の成長を見て感動することは、人間に本能的に備わっている性質なのだと思う。

 

 

映画『ザ・クリエイター/創造者』 映像美は素晴らしいが・・

『ザ・クリエイター/創造者』 監督&脚本:ギャレス・エドワーズ

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【あらすじ】

 核戦争を引き起こしたAIを排除したいアメリカを中心とした西側諸国と、AIを支持するニューアジアの2大陣営が対立する近未来。アメリカの元特殊部隊隊員ジョシュアは、戦争を終わらせる力を持った高度なAIの開発を行った設計者「ザ・クリエイター」を探し出すことを命じられる。

 

【感想】

※以下ネタバレ含む

映画館で観たが映像美は素晴らしい

 当作品は映画館で観た。あらすじに書いたように、「2大陣営の対立」「高度なAI設計者」が出てくる近未来を舞台にしているという、スケールの大きい世界観の設定。映画『ブレードランナー』の世界を連想させるので期待して観に行った。映像美は素晴らしいもので、近未来の世界をよく表現できていた。

ストーリーが浅く、世界観の壮大さに見合っていない

 あらすじにも書いたように世界観は壮大で、予告もその部分を強調するような作りになっている。しかし、ストーリーの大部分は主人公ジョシュアの居なくなった奥さん探しがメインであり、世界観のスケールを活かせていない。西側諸国とニューアジアの2大陣営が対立しているのだから、例えば戦争映画のように国家上層部による政治に関する意思決定のシーン等があっても良いと思うが、そういうシーンは無い。「高度AI設計者」は物凄い力を持っている黒幕的なポジションなのかと思いきや、特にそういう訳でも無い。そのため観ていると期待値を下回りガッカリしてしまう。

 

感動を狙っているが、全然感情移入できず冷める

 作中で主人公ジョシュアは、予告にも出てくるAIの子供アルフィーと共に行動をする。アルフィーは実はジョシュアの子供を元にしたAIであり、ラストシーンで主人公の自己犠牲により2人は別れることになる。だが、作中でジョシュアとアルフィーの絆が深まるシーンが特に無い。そのため、悲劇の別れのような演出をしているが、全然感情移入できず冷めた気持ちで見てしまう。

 

 銃撃戦や特殊部隊によるラボ潜入シーンなど、部分的には面白いところもあるので、期待して観なければ暇つぶしにはなる映画だと思う。

 

映画『スタンド・バイ・ミー』 青春映画の傑作

映画『スタンド・バイ・ミー』 監督:ロブ・ライナー 原作:スティーヴン・キング

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【あらすじ】

 ある少年が列車にはねられ、死体のまま放置されていることを4人の少年が知る。死体を発見すれば有名人になれると思い、4人の少年は死体探しの旅に出る。

 

【感想】

冒険の動機の根底にあるものは現実逃避の願望

 かなり好きな映画の一つ。小学生の頃に一度観たことがあったが、その頃は単なる冒険物語だとしか思わなかった。しかし、大人になってから改めて観て印象が一変する。彼らは4人それぞれが家庭に問題を抱えており、未成年だが喫煙シーンも出てくる。子供なりに辛いこと、苦しいことに直面して毎日我慢している。そんな田舎町での生活に嫌気が差しており、そこから逃げたい気持ちが彼らを死体探しの旅に駆り立てているように思える。つまり、死体を見つけて有名人になりたいというのは旅の口実であり、本音は辛い日常からの現実逃避にある。そんな彼らの逃げたい気持ちに共感できる。

 

このような青春の時間は2度と来ないと思わせる終盤のシーン

 終盤で彼らの住む町に帰ってくると、一人ずつ別れの挨拶を述べて各自の家に消えるように去っていく。もう2度とこのような冒険の時間は無いことを映像で示していて切なくなる。

 エンディングではBen E. King の名曲「Stand by me」が流れるが、これがまた感慨深くてグッと来る。そんな最高の映画だった。

 

ドラマ『ダブルフェイス』 警察官とヤクザ、根底の部分で似ている2人の物語

『ダブルフェイス』 監督:羽住英一郎 脚本:羽原大介 音楽:菅野祐悟

主演:西島秀俊香川照之

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【あらすじ】

ヤクザに潜入した警察官、森屋純(西島秀俊)と、警察に潜入したヤクザ、高山亮介(香川照之)の2人が、互いの存在をあぶり出そうと暗躍する。香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク。

前編にあたる『潜入捜査編』と後編の『偽装警察編』の2部構成の傑作。

 

【感想】

主演の2人のバックボーンがよくできている

 かなり好きなドラマ。同じ『インファナル・アフェア』のリメイク作品『ディパーテッド』より面白いと思う。特に主演の2人のバックボーンがしっかり設定されているところがストーリーに深みをもたらしている。生まれた場所も知らず苦労して育ち警察官になった森屋。幼い頃に織田組の組長、織田大成(小日向文世)に拾われ育てられた高山。2人とも暗い過去を持ち、敵対組織にスパイとして潜入し、誰にも言えない重い秘密を抱える共通点が、キャラクターの魅力を引き立てている。

 

香川照之小日向文世の演技が素晴らしい

 やはり香川照之は演技が上手い。特に表情だけでキャラクターの心境を伝えられているところが素晴らしい。小日向文世インテリヤクザといった雰囲気で組長の織田を演じており、静かな迫力を醸し出せていて圧倒される。表面的な物腰は柔らかいが、実は部下を自分の駒としか思っていない組長を上手く演じられている。

 

 他にも緊張感のあるストーリー構成や、2人の境遇を暗示する映像の写し方や、素晴らしいBGMなどの魅力が詰まった作品なのでおすすめ。